”ムカサリ”と”かがり火”


むかし、北目(愛島)のある家で、菅生(村田)からお嫁さんをもらうことになりました。
年も押しせまるある日、近所親類の人達でごちそうなど準備万端ととのえ、お嫁さんを迎えるばかりとなったそうです。

北 目と菅生は隣村で、直線では15~6キロメートル位です。近道もありますが、そこは山道で坂も登り下りで、そのうえ文字通り狐の細道なので、山仕事以外利 用しませんでした。菅生からは、細倉から志賀大日向を経ての道のりで、当時は、その道ですら密林地帯も多くさびしい道だったそうです。

遠いので遅くならないようにと心がけていたそうですが、やはり、昔から「(*)ムカサリと馬車引きは明るいうちに入るのが(*)メクセ。」で今日の合理化時代からみるとちょっと考えられないようです。

やがて予定よりだいぶ遅れて、ムカサリ一行が到着したそうです。

親 父さんがうわさで聞いていたお嫁さんは、初対面の第一印象とはだいぶ違うようでした。小太り、丸顔、色白なそうだが、まず槍(*)オドゲだし、顔も杓子ヅ ラで、そのうえ、色黒だから、いくら見ても(*)ミダグナスでした。それでも家の(*)ガガが見て良いのだし身も丈夫のようだし、家に授かったものと思い 直し喜んで嫁はもちろん、ムカサリ一行のものも、てあつく取り扱ったそうです。

お手伝いの人達が驚いたのは、ムカサリ一行が、おお食いだし、それに食いざまがすこぶる下品だったことです。

何しろガズガズしているし、(*)オママなんかは、口に半分、こぼすのが半分という状態でした。

いっときは育ちが悪いからとも思いましたが、それも菅生は山奥で北目より(*)ザイゴ太郎だからぐらいに皆んなも思っていたそうです。

そんな具合だからたちまちお膳のものは食い終えて、そのうちあっという間にお包用の三品盛りまで食ってしまったそうです。

そして、一番大将格のが「ゲン。」と鳴いて合図したかと思ったら、正体をあらわし、一斉に逃げるうさぎのように、座敷からとび出し、背戸(裏門)の山のほうに逃げ出しました。

あぜんとした一同は、にくらしいやら、くやしいやら、しばらくがっかりしているうちに、今度は本物の嫁ごが到着したそうです。きつねにただ食いされた親父さんは、今度はすっかりこりて、家のジョウ口の両側にかがり火をたいて、本当の嫁ごかを確認したそうです。

そののち世間でも、ムカサリを迎えるときは必ずかがり火をたくようになったのは、このことがあってからだそうです。

本物のムカサリも、やはり来る途中狐にバカされ、さんざん山の中を歩かされ、到着が遅れたそうです。そのあと無事に式も終わりましたが、こんなことから冬の夜長も宵がすっかり明けてしまい、窓などにむしろをつるして部屋を暗くし、床入儀式を行ったそうです。

(*)ムカサリ・・・嫁入りする
(*)メクセ・・・かっこうわるい
(*)ガガ・・・おくさん
(*)オドゲ・・・あご
(*)ミガグナス・・・みにくい人
(*)オママ・・・ご飯
(*)ザイゴ太郎・・・田舎者

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