比丘尼島の物語
むかしむかし、寺野(下増田)に大きな沼があり、その中に一つの島がありました。そこに、信心深い一人の比丘尼(女の僧)が住んでおり、観音様をまつり、巫女となって病気の治療やご祈とうなどもしていました。
そのうち、この尼さんはだんだん歳をとってきたので養女を迎えました。この娘は尼となって、熱心に信仰していましたが、あるとき、病気になり、いっこうによくなりませんでした。
そ れで、母僧が観音様にお聞きしたところ、「ある日、あなたの娘が沼のあたりを散歩していたとき、蛇の尾を踏んだのです。びっくりした蛇は娘の足をかんだの で、娘は蛇を踏み殺してしまったのです。ところが、その蛇は沼の水神様のお使い蛇だから、おわびを申しなさい。」と言われたのです。
母僧は おとがめを許していただこうと水神様におわびを申し上げましたが、蛇の霊があまりに執念深いためか、どうしても良くなりませんでした。母僧はついに意を決 して「私の命を差し上げますから、どうか娘の病気を治して命をお助け下さい。」とふかくおわびを申し上げ、ザブンとばかり沼に飛び込んで自殺してしまいま した。
すると、たちまち病気は治ってしまいました。あとに残された娘の悲しみがどのようなものであったか、はかりしれません。
これ以後娘はずっと信仰生活を続けて母僧の霊を慰めるとともに、村人の苦しみをも救ったということです。